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よくある話-吸血鬼編-その3
[No.363] 2008-10-24 Fri 03:24
吸血鬼の続き。……っぽいもの。
同じ世界での梨沙子の話。
その1はコレ
その2はコレ


愛理と桃子の秘密の儀式。
それはきっと梨沙子以外、誰も気がついていないはずだ。

愛理が人間の血ではなく、桃子の血によって生きている。
いや、生かされている。

梨沙子は初め、吸血鬼が吸血鬼の血を飲むという行為を珍しいなと思っただけだった。
何らかの理由があってたまたま桃子の血を飲んでいたのだろうと考えていたが、愛理を見ているとたびたび桃子から血を分けて貰っているのだとわかった。

何故、どうして。

そんな好奇心から愛理を見るようになった。
梨沙子は愛理が人間の血を飲まないことを知り、桃子の血だけで生きていることを知った。
まるで秘密を共有しているかのような感覚は梨沙子の中に変化をもたらした。
好奇心はいつしか別の感情に変わっていた。

二人の秘密を知ったのはいつの事だったか、梨沙子は思い出すことが出来ない。
どれぐらいの年月かはわからないが、随分と長い間知らない振りをしてきた。
だが、それももう限界だった。
梨沙子は愛理にずっと言いたくても言えなかった言葉がある。

あたしの血をあげるよ。

愛理が何故、人間の血を飲まずに桃子の血を飲んでいるのかは知らない。
梨沙子の周りには愛理以外、そんな吸血鬼はいなかった。
戯れに吸血鬼の血を飲むことがあっても、その血だけで生きていくような吸血鬼は見たことがない。
そもそも、吸血鬼の血だけで生きていこうとするだけでも珍しいのに、愛理は血をもらう相手を桃子に限定しているようだった。

街には人間が溢れている。
毎日血が必要なわけではないが、特定の相手のみから血を貰うよりも、街へ出て溢れかえる人の群れから食事をする相手を選ぶ方が手っ取り早い。
だから、梨沙子には愛理がわざわざ桃子に頼んでまで血を貰っていることが理解出来なかった。

桃子の血を飲む愛理を見てそんなに吸血鬼の血は美味しいのかと、梨沙子も吸血鬼の血を飲んでみたことがある。
だが、特別美味しいということもなく、人間の血と大して変わらないと感じた。
ならば、愛理が飲む血は誰の血でもいいはずだ。
梨沙子はそう思ったが、愛理に血をあげると言うことは出来なかった。
絶対に断られるとわかっていたからだ。

愛理の視線の先には、いつも桃子がいた。
最初は空腹の時だけだと思った。
血が欲しくて桃子を見ているのだと思っていた。
けれど、愛理はいつどんな時も桃子を見ていた。
程なくして、愛理の中にあるものが自分の中にあるものと同じだと梨沙子は気がついた。
しかし、それがどうして血を飲むという行為と繋がっているのかはわからないままだった。

「りーちゃん、待った?」

約束した時間の五分前、梨沙子以外誰もいないがらんとした楽屋に愛理が入ってくる。

メンバーが全て帰ってしまうであろう時間。
そんな時間を選んで梨沙子は愛理を呼び出した。

「待たないよ。だって、まだ約束の時間じゃないもん」
「ごめん。早かった?」
「ううん。早く愛理に会いたかったら、丁度良かった」

梨沙子は愛理の顔を見る。
健康そうとは言えないが、青い顔をということもなかった。
数週間前、梨沙子が見た愛理は青い顔をしていた。
血が足りないのだとすぐにわかったが、何も言うことが出来なかった。
結局、それから数日後には、桃子から血を貰ったのか愛理はいつもと変わらない顔色をしていた。

「ねえ、愛理」
「なに?りーちゃん」

鏡の前に座っている梨沙子の隣にある椅子へ愛理が腰をかけた。

「一緒に行かない?」
「どこへ?」
「食事に」
「……みやと行くんじゃないの?」
「今日は愛理と行きたい。あたし結構さ、人捕まえるの上手なんだよ」
「そうなんだ」
「うん。みやがね、上手だから。習ったんだ、みやに」
「相変わらず仲良いね」
「みやはあたしの保護者だもん」
「そんなこと言ったら、みやが怒るよ」
「絶対、怒らないよ。なんだかんだ言って、あたしに甘いもん。みや」

梨沙子は雅から本気で怒られたことがない。
雅は文句を言いながらも、梨沙子の我が儘を聞いてくれる。
吸血鬼の血を試しに飲んでみたいと言った時も怒ることはなかった。

「行こうよ、愛理」
「ごめん。あたし、今日はお腹いっぱい」
「そっか。でも、愛理ってさ、いつ食事してるの?あたし、見たことないけど」

梨沙子は愛理が事実を話すわけがないと知っていて尋ねる。
愛理が眉根を寄せて困った顔をしていたが、質問を取り消すつもりはない。

「それ、この前舞美ちゃんにも言われた。でも、あたしちゃんと食事してるから。じゃないと、こうして生きてるわけないでしょ」
「じゃあさ、今度一緒に行こうよ。今日はお腹いっぱいでも、いつかお腹空くでしょ?」
「あたし、一人がいいから」

愛理が嘘を塗り重ねていく。
梨沙子の視線を避けるように下を向く姿が痛々しかった。

梨沙子はそんな愛理に手を差し伸べることが出来る。
これ以上嘘を付かずに済むように。
もっと簡単に食事が取れるように。
愛理が受け入れてくれさえすればいい。

覚えていられない程長い間、愛理と桃子を見てきた。
これ以上、見ているだけの時間を過ごすのは嫌だ。

「なんで隠すの?あたし、知ってるんだ。愛理が人の血、飲めないこと」

梨沙子は愛理と桃子の秘密を壊す。
ずっと見て見ぬふりをしてきた秘密は、ガラスを割るよりも簡単に壊れる。

「飲めるよ。人間の血ぐらい飲める」
「じゃあ、今から食事に行こうよ」
「それは……」

愛理が俯く。
長い髪がさらさらと流れて愛理の顔を隠した。

「ほんとのこと言いなよ。人間の血飲めないって。……ねえ、愛理。人の血を飲めない吸血鬼ってさ、そんなのもう吸血鬼じゃないよ。でも、愛理は人間でもない。吸血鬼でも人間でもない愛理ってさ、なんなの?どうやって生きてるの?何の為に生きてるの?」
「…………」
「教えてくれないの?だったら、あたしが教えてあげる。愛理はももの血が欲しいだけでしょ。ももから血をもらって生きてて、ももから血をもらう為に生きてる」
「りーちゃん。……知ってたの?」

ゆっくりと顔を上げた愛理が、信じられないといった口調で言った。

「知ってたよ。ずっと前から知ってた」
「そっか。……おかしいよね、こんなの」

愛理が右手で手首を握る。
梨沙子はきつく握られた手首を見て、愛理の食事風景を思い出した。

手首から流れ出る桃子の血。
愛理の赤い舌がもっと赤い血を舐め取っていく。
そして、桃子の血で汚れていく愛理の手。

梨沙子は鏡の前に置いてある小さな鞄を手に取る。
中からカッターを取り出す。
いつか使う日が来るかもしれないと、常に鞄の中に入れていた。

「愛理。あたしの血、愛理にあげるよ。全部あげてもいい」
「りーちゃん?」

カタカタとカッターの刃を出し、手首に当ててすうっと引く。
桃子と同じように赤い血が流れ出る。

「愛理」

血に濡れた腕を愛理に差し出す。

「人間の血じゃなければいいんだよね?ほら、見てよ。ももの血と変わらない」

ぽたり。
行き場のない血が床に染みを作っていく。

「りーちゃん、お願い。傷、治して。こんなのだめだよ」

梨沙子は首を横に振って答える。
すると、愛理が梨沙子の手首を掴んだ。
その瞬間、掴まれた部分が熱くなる。
傷を治そうとする力が流れ込んできて、梨沙子は乱暴に愛理の手を振り払った。

「なんで?どうしてももはよくて、あたしはだめなの?」
「わかんないけど。でもあたし、ももじゃなきゃだめなんだ」
「そんなの、試してみないとわからない」

腕を濡らす血を指先で掬い取って、赤く染める。
起ち上がって、愛理の肩を掴む。
何をされるのか感づいた愛理が逃げようとするが、梨沙子は無理矢理愛理の唇に血を塗りつけた。

ゆっくりと愛理が口を押さえる。
身体を折るようにした愛理から、ごほんごほんと濁った音が聞こえた。

「ごめん、りーちゃん。あたし、ずっと昔からももじゃないとだめなの。他の人の血は飲めないんだ」

掠れた声でそう言うと、愛理が口を手の甲でごしごしと拭った。

「いつかあたしの血にだって慣れるよ」
「慣れるのかもしれないけど。でも、慣れたいとは思わない。りーちゃん、ごめん。……りーちゃんがいくらあたしの為に血を流しても、あたしはそれを飲むことが出来ないと思う」

愛理が唇を噛みしめる。
今にも泣き出しそうだった。
眉毛は泣いているときと同じ形をしていた。
けれど、涙は流れ出ない。
落としきれなかった血のせいか、愛理の唇は口紅を塗ったように赤かった。
まるで噛みしめた部分から血が流れ出たようだった。
床に落ちた血と何も変わらないはずなのに、愛理の唇を染める血は綺麗だと梨沙子は思う。

「ごめんね、りーちゃん」

もう一度謝罪の言葉が告げられる。
愛理の言葉は梨沙子の予想通りの言葉だった。
こうなることはわかっていた。
わかっていたのに愛理に告げたのは、きっと、愛理の口から直接聞いて全てを終わりにしたかったからだろう。
けれど、長い時間付き合い続けた感情とはそう簡単に別れられそうになかった。
愛理のことを諦められそうにない。
それは、一番知りたくない事実だった。

これから目も眩むような長い時を生きていく。
終わりが見えない時間の中、梨沙子は今までと同じように愛理を見続けるしか出来ない。
どれだけ血を飲んでも満たされない空腹を抱えながら。


END

---   ---   ---

いつか書こう書こうと思っていたりしゃあいりがこんなことになってしまった件。
……まあ、吸血鬼の世界を流用するとこうなるよね。
私は片思いな梨沙子が好きなのかもしれない。
というか、片思いという状況が好きなのかもしれない。


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